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ロシアの絵本を3冊、翻訳出版しました!
①『パパかいぞくの こもりうた』
アントン・ロマーエフ 作
②『ちいさい おふねの ぼうけん』
マリーナ・アロムシターム 文
ヴィクトーリヤ・セムィーキナ 絵
③『そらにかえった にゅうどうぐも』
レオニート・チシコフ 作
(いずれも藤原潤子訳、成山堂書店)
①の『パパかいぞくのこもりうた』は、夜になってもぜんぜん寝る気のないチビ海賊のお話です。やさしいパパ海賊が子守歌を歌って寝かせようとしますが、歌詞からどんどん空想がふくらんで、チビ海賊はますます大興奮! 一体、いつになったら眠るのでしょう? パパと子どもの攻防が楽しい一冊です。最後の場面転換では、どんなやんちゃ坊主もいつかはちゃんと大きくなるのだと実感させられ、ジーンときます。
作者のロマーエフは緻密で美しい絵で有名な画家で、これまでにグリム童話やアンデルセンの童話をはじめとして、多数の絵本の挿絵を描いてきました。本作はその彼が初めて自身で文章も手がけた作品で、ブラチスラバ国際絵本原画展「金のりんご賞」を受賞しました。
②の『ちいさい おふねの ぼうけん』は、海に行って本物の船になろうと心に決めた小さな紙のおふねのお話です。いろんな船に出会いながら旅を続けるおふねは、無事に海にたどりつけるのでしょうか? 未知の世界に一歩を踏み出す勇気をくれる一冊です。
作者のアロムシタームは元教師で、現在は作家としてのみならず、児童書情報サイトの編集者や、教育研究家としても活躍している人です。挿絵を描いたセムィーキナは、イタリア在住のロシア人画家。その鮮やかさが際立つ絵に惹かれる人は多く、彼女のインスタグラムのフォロワーは、何と10万人を超えています。本作はクラウス・フラッグ賞と北京国際ブックフェア・イラストレーション展審査員賞を受賞しました。
③の『そらにかえった にゅうどうぐも』は、雲を紡いでセーターを作ることを思いついた、ひとりの男の子のお話。ふわふわで温かいセーターができて、男の子は大喜びしますが、思いがけず困ったことが起きます。地球温暖化をはじめとする、人間による環境破壊についての寓話的作品です。
作者のチシコフは現代ロシアを代表するアーティストで、世界各地で個展・グループ展を行っており、今年の瀬戸内国際芸術祭にも参加しています。特に月のオブジェと共に世界各地を旅する「僕の月」プロジェクトで有名で、前作『かぜをひいたおつきさま』(鴻野わか菜訳、徳間書店、2014年)もおすすめです。
これら3冊の出版までは長い道のりでした。絵本はフルカラーのため、印刷にお金がかかりますし、大人向けの本と違い、新刊ではなく古典的な名作が市場のほとんどを占めています。そのため、日本でまだ無名のロシア人作家の作品は、売れない、採算が取れないという理由でなかなか出してもらえません。持ち込んでは断られることを繰り返し(断られるのはまだいい方で、全く返事さえもらえないことも多いです)、あきらめかけていた時に、成山堂書店さんに巡り合えたのは幸運でした。成山堂は海事・水産・交通・気象に関する学術出版社で、絵本は扱っていなかったのですが、編集者が私の企画に興味を持って下さり、3冊同時発売するという方向で進み出したのです。その後も、著作権交渉その他をめぐる紆余曲折で出版取りやめになりかけたり、ウクライナ侵攻のせいで企画が没になるのではと気を揉んだりもしましたが、このたびようやく刊行されました。
現在、ロシアとウクライナについては毎日あまりにも悲しいニュースばかりで、日露関係も冷え込んでいます。しかし戦争が終わり、ふたたび日露交流が活性化する日が来ることを願って、今後もささやかながら、絵本を通してロシア文化の良い面を伝えていけたらと考えています。
藤原潤子(神戸市外国語大学)
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掲載紙:「日本とユーラシア」月刊広島県版、第56号